1. 反復性肩関節脱臼

スポーツや転倒などによって肩関節が外れる(関節窩から上腕骨頭が外れる)ことを外傷性肩関節脱臼といいます。この外傷性脱臼後に軽い外力によってたびたび肩関節が抜けやすくなってしまった状態を反復性肩関節脱臼といいます。コンタクトスポーツと呼ばれる、ラグビー・アメフト・柔道などの選手によく見られます。

10代で脱臼を経験した方の80~90%が再脱臼を経験するといわれています。
原因としては、初回脱臼の際に損傷した関節唇(かんせつしん)や関節包(かんせつほう)と呼ばれる軟部組織が完全な修復を得られにくいことが挙げられます。

検査

レントゲン・CT・造影MRIなどが一般的です。
最近は、超音波エコーにての評価も有用な場合があります。

治療

初回脱臼の場合に関しては、三角巾やsling装具などで約3週の局所安静を指導しています。これにより何の固定も行っていなかった場合と比べ、反復性へ移行する確率を下げることができるとされています。

一方で、軽い外力でも複数回の脱臼を認める場合や、初回脱臼後の装具療法を行ったにもかかわらず、診察にて明らかなapprehension(抜けそうな違和感)を認める場合は手術加療をお勧めする可能性が高くなります。

手術加療としては、内視鏡を用いた手術をお勧めしており「鏡視下バンカート修復術」といいます。手術方法は下図の通り、「suture anchor法」といい、吸収性のビス(アンカーと呼ばれます)を用いて行います。
このビスから出た糸を損傷して緩んだ靭帯(ほとんどはIGHL: Inferior Gleno-Humeral Ligament)に通して縫合する方法です。

1-上腕骨

ツルツルした丸いものが上腕骨頭(じょうわんこっとう)です。下面に見られるのが、受け皿である関節窩(かんせつか)です。ここから靭帯(IGHL)が激しく剥がれ、下方に落ち込んでいる状態です。

この損傷部位を「Bankart(バンカート)損傷」といい、反復性脱臼では必ず認める所見です。

2-損傷の部分

これは「Hill-Sachs(ヒル・サックス)損傷」といい、脱臼の際に発生する上腕骨頭の後方にできる損傷です。軟骨が削られて無くなってしまっており、その下層の海綿骨(かいめんこつ)がむき出しになっている状態です。

一度でも脱臼をしたことがあるという証明にもなります。

3_右肩関節後方

右肩関節を後方から覗いた写真です(左が関節窩・右が骨頭となります)。
剥がれて下方に癒着してしまった靭帯(IGHL)を元の位置に戻してあげるためにはまず癒着を解除する必要があります。

「ラスプ」という専用器具を用い、愛護的にこの靭帯の癒着を解除します。

4-癒着解除

癒着の解除を終了したところです。
下方に落ち込んでいた靭帯がムクムクと持ち上がってきます。

5-吸収性アンカー挿入

先ほど説明済の「吸収性アンカー」を挿入し、ここから出ている強い糸(strong suture)を靭帯にかけて縫合していきます。

当院では通常1例につき4~5本のアンカーを使用します。

6-縫合完了

すべての縫合が終了したところです(上:骨頭 下:関節窩)。
一番最初の写真と比べれば、東尋坊(とうじんぼう)のような崖が無くなり、靭帯も元の位置にされていることが分かります。

また最初の亜脱臼位も改善されていることが、お分かりになると思います。

全身麻酔で行われる手術ですので、入院期間は2日~3日が一般的です。皮膚の傷は1㎝未満の傷が3か所程度できるだけです。術後はsling装具を約3週行って頂くことになります。

関節可動域は数か月以内で改善するのが一般的ですが、ラグビーなどのコンタクトスポーツへの完全復帰にはおよそ6か月を要します。

2. 腱板断裂

腱板(けんばん)とは別名「インナーマッスル」と呼ばれる肩の深部にある板状の腱性組織のことをさします。この組織が断裂することを「腱板断裂(損傷)」といいます。損傷の原因としては、肩を強打することなどによる外傷によるものや、加齢変化(変性)によるものに分けられます。

この腱板が損傷することにより、様々な症状(痛み・筋力低下・可動域制限など)が生じる場合があります。ただ大事なことは、腱板が損傷しているからといって痛みなどの症状が必ずしも出るわけではないということです。近年は超音波診断装置などの発達により、MRIなどを必ずしも撮影しなくても腱板断裂の有無が分かるようになりつつあります。

「無症候性(むしょうこうせい)腱板断裂」といって、腱板が切れているにも関わらず全く自覚症状のない人が60才以上では約4割に達するというデータもあります。

治療に関して

残念ながら一度完全断裂に至った腱板は、自ら勝手に修復されることはありません。
しかし断裂があっても疼痛や機能障害がない場合は通常外科的治療の対象とはなりません。また肩に疼痛や機能障害があり、MRIなどの画像診断で腱板断裂を認めたとしても必ずしも手術適応とはなりません。腱板断裂以外が原因で痛みなどが生じている可能性があるからです。

一つの症状にはいくつもの原因が関与している場合があります。
腱板断裂の治療の場合、特にこの「機能診断(きのうしんだん)」が重要になります。

完全断裂の状態

腱板が断裂しているため、「大きなドーム状の穴」が空いてしまっている完全断裂の状態です。

下に見える「黄色い床」が上腕骨大結節(じょうわんこつだいけっせつ)といい、もともと腱板がくっついていた骨の場所です。

断裂を複数本のアンカーを用いて引き寄せる様子

この大結節部に、アンカーと呼ばれるビスを挿入します。アンカーとは英語表記で「Anchor」と書き、船を停泊させる為に用いられる錨(いかり)の事も意味します。

つまり船を引っ張るのと同様に、切れて離れてしまった腱板を引っ張り元の位置に戻します。

左図のように比較的大きな断裂では複数本のアンカーを用いて、何か所にも糸をかける必要性があります。

レントゲン

手術後の処置について

3. 肩鎖関節脱臼

肩鎖関節は肩甲骨の一部である肩峰(けんぽう)と鎖骨遠位部で構成される関節です。
この肩峰部分の直達外力(ちょくたつがいりょく:直接ぶつけたりすることによる外力)により生じます。そのため柔道やラグビーなどのコンタクト系スポーツや、バイク・自転車などからの転落などによって発生しやすい疾患です。

脱臼の程度は様々な分類などで評価されるが、Tossy分類やRockwood分類が有名です。手術をすべきかどうかは必ずしもこの分類だけで決定されるわけではなく、年齢・職業なども考慮されます。

一般的には、Ⅰ型&Ⅱ型に対しては保存加療を、Ⅲ型(完全脱臼)以上に関しては手術療法が選択される傾向にあります。

1-肩関節の骨格

肩鎖関節の安定性は①肩鎖靭帯②烏口鎖骨靭帯によって保たれているが、多くの安定性は②烏口鎖骨靭帯に起因しています。

烏口鎖骨靭帯(Coracoclavicular ligament:以下C-C lig.)はさらに円錐靭帯(Conoid lig.)と菱形靭帯(Trapezoid lig.)に分かれます。
C-C lig.が完全に断裂すると、上方脱臼が起こり得ます。

2-靭帯の様子

[Rockwood分類]
TypeⅠ・TypeⅡ⇒三角巾などで保存療法が選択TypeⅢ以上⇒基本的には手術適応となりうる

手術方法はNeviaser法・Weaver法・Dewar法・Bosworth法とその他まだまだたくさんあります。

現在私は、関節鏡視下にPhemister変法やエンドボタンを用いた方法などがあります。

鏡視下Phemister変法

レントゲン2

鏡視下にエンドボタンを用いた整復術

1-ファイバーワイヤー

両端にあるsilverの金属が「エンドボタン」と呼ばれるものです。一般に膝前十字靭帯再建術に頻用されます。

このエンドボタンにファイバーワイヤーと呼ばれる強固な糸を通しています。

2-烏口突起

左図は靭帯付着部である烏口突起を露出したところです。

3-トンネルを作成したところ

この部位にガイドワイヤー越しに4.5mmのドリルでトンネルを作成したところです。

4-エンドボタンが到着

作成したトンネルの入り口にエンドボタンが到着したところです。関節鏡で確認しながら、糸を引っ張りこのエンドボタンがトンネルをくぐるように誘導します。

5-エンドボタンの向きを90度変える

トンネルを通過したエンドボタンの向きを90度変える(flipする)ことによりトンネルの出口でロックされるようになります。

鎖骨側に関しても同様の手法を用いて、エンドボタンを通過させflipさせます。

4. 上方関節唇損傷(SLAP lesion)

SLAP損傷とは the superior labrum anterior and posterior lesion の略であり、1990年にSnyderらによって命名されました。主として肩の外傷や投球障害などにより生じやすく、スポーツ種目の中でも野球やバレーボールなどの選手に多くみられます。

投球時のフォロースルー期やバレーボールでスパイクを打った瞬間に肩の奥の方に痛みを感じ受診されることが多い印象です。

以下のように分類されています。

SLAPlesion

SLAPlesionのType

SLAP_Type1

SLAP TypeⅠ

30代 バレーボール選手
反復性肩関節脱臼に合併したSLAP損傷を認めました。

SLAP_Type2

SLAP TypeⅡ

20代 柔道選手
腱板断裂に合併したSLAP損傷を認めました。

SLAP_Type3

SLAP TypeⅢ

10代 ラグビー選手
反復性肩関節脱臼に合併したSLAP損傷を認めました。
縦に大きく裂けた関節唇と周囲の滑膜増生を認めます。

SLAP_Type4

SLAP TypeⅣ

10代 ラグビー選手
トレーニング中の受傷を契機としたSLAP損傷を認めました。

SLAP_Type4-2

手術方法は部分切除もしくは吸収性アンカーを用いた縫合術が一般的です。

左図は吸収性アンカーを用いて縫合処置を行った後の写真です。

全身麻酔で行われる手術ですので、入院期間は2日程度が一般的です。皮膚の傷は1㎝未満の傷が3か所程度できるだけです。術後はsling装具を約2~3週行って頂くことになります。

通常、腱板断裂やバンカート損傷など他の病変を伴っていることも多いので、合併損傷の有無により術後の後療法は異なります。また関節唇に対して部分切除を行ったのか、縫合術を行ったのかにもよって変わってきます。一般的には縫合術まで行う必要性があった場合の方が、完治まで時間を要します。

5. 肩関節拘縮(かたかんせつこうしゅく)

「拘縮(こうしゅく)」とは「各関節が他動的にも自動的にも可動域制限を起こす状態」と定義され、一般的には軟部組織の変化によって起こる関節可動域制限の事を指します。定義も大事ですが、もっと大事なのはその原因です。
以下のように原因は不明なものから様々な原因まで多岐に及びます。

肩関節拘縮の表

「あなたの診断名は特発性肩関節拘縮です」といわれると思わず「しっかり診断名つけてもらってありがとうございます!」と言い帰り支度をしたくなるかもしれませんが、言い換えれば「原因不明の肩の可動域制限です」と言っているのとあまり変わらないことにもなります。
すなわち特発性○○と診断するためには、二次性と呼ばれる上記の疾患などにはどれも当てはまらないと診断される必要があります。そのため通常の外来診察で特発性という言葉を用いるのは、very easy & very difficultと言えるのではないでしょうか?

一方、二次性の中でダントツに多いのが糖尿病が原因となり生じる糖尿病性肩関節拘縮です。
二次性の拘縮に対する治療はその原因も同時に治療することが不可欠となります。特に糖尿病性拘縮に関しては、原因となる血糖値のコントロールが絶対不可欠となります。これに加え、関節可動域訓練やブロック注射を併用することで改善を多くの場合認めます。夜間痛・安静時痛などは概ね保存的加療にて対応可能ですが、時として可動域制限が残存し日常生活に大きな支障が生じる場合があります。このような場合は内視鏡を用いた手術加療も考慮されることとなります。

糖尿病性肩関節拘縮における現在の私の手術適応は以下の通りです。
(この適応は治療医により少なからず異なる事を御了解下さい)

1. 血糖値のコントロールが少なくとも3か月以上は良好である。

2. 夜間痛・安静時痛は無いかあってもごく僅かである。

3. 血糖コントロールが良好な状態でリハビリによる治療を3か月行っても大きな変化を認めない。

以上の3条件がすべて揃った状態で初めて手術的治療を提案させて頂いております。どうして適応にこだわるかと云うと、大事なことは手術そのものよりも術後にあるからです。いかに術後疼痛や筋肉のスパズムを最小限に抑えながら早期よりリハビリができるかにかかっているからです。

骨格図

手術方法は右図のように内視鏡を用いて、縮んでしまった関節包(関節の袋)を専用の器械を用いて切離していきます。私は主に5mmのポータル(手術創)を3か所作成(前方・後方・後下方)し1~4の順に関節包切離を行っています。

術後疼痛のため何週間も腕を動かせないでいると、せっかく広げた関節包がまた癒着し治療効果が半減します。そのため術後しばらくは経皮的に少量の麻薬等の鎮痛剤を用いながら可動域訓練を行って頂いております。これにより術後早期から疼痛を最小限に抑えたリハビリが可能となります。

入院期間は2~3日でも可能ですが、術後のリハビリもこのような理由で大切なため1~2週間の入院加療をお勧めさせて頂いております。

6. 石灰沈着性腱板炎 calcified tendinitis of the shoulder

読んで字の如く「石灰成分が肩腱板に沈着する」疾患です。よく患者さんにも「どうしてこんなモノができるんですか?」と聞かれるのですが、現時点では諸説あるものの原因は未だ不明です。

50歳くらいの方に好発し、女性にやや多いとされています。石灰が出来ていると必ず痛みが出るのかというとそういう訳ではなく無痛性(むつうせい)といい、症状の出ない場合もあります。また自然に沈着が消失する場合もある事が知られています。

また石灰化の過程は 大きく3期に分けられますが、中でも急性期と呼ばれるresorptive phaseでは著名な圧痛や安静時痛や場合によっては発熱まで認めます。私の経験でも疼痛のため一睡も出来ず救急車を呼んで来院される方が何人かいらっしゃいました。それ位、時として激痛を伴う疾患でもあります。

治療方法としては自然治癒の可能性もありますので保存療法が基本となりますが、激痛を伴う急性期にはステロイド注射や穿刺&洗浄法などが有効とされます。
このような保存療法に抵抗し、日常生活に支障をきたす場合は内視鏡を用いた手術療法も検討されます。

石灰沈着の様子

7. 肩甲上神経絞扼性障害 Suprascapular nerve palsy

肩甲上神経(けんこうじょうしんけい)は右図のように非常に興味深い走行をしています。また上肩甲横靭帯や下肩甲横靭帯といった云わば「狭いゲート」を潜り抜けて最終的にインナーマッスルの一つである棘下筋へと至ります。

この「狭いゲート」などが原因の一つとなり緊張を受けやすい神経の一つと考えられています。スポーツにおいては、テニスのサーブややバレーボールのスパイクなどの時に肩甲骨の過度な運動が契機となって起こることが知られています。

またスポーツ以外には、ガングリオンと呼ばれる良性腫瘍によって発生することが知られています。

肩甲上神経の走行

下図は棘窩切痕部にできたガングリオンのMRI像です。これにより棘下筋が委縮していることも確認されます。
肩関節の自動前方拳上が約80°程度しか不可能であり、棘下筋委縮も顕著であったため内視鏡による手術をお勧めいたしました。
術後1ヶ月で自動前方拳上は約160度に改善されました。

MRI

1-関節唇損傷部位

肩甲上腕関節内の関節唇損傷部位からアプローチを行いました。

2-ガングリオンの切開

ガングリオンを確認し切開を行ったところです。
内部から黄色いゼリー状のガングリオンの内容物が確認できます。

3-ガングリオン除去

ガングリオンを除去後、損傷していた関節唇を吸収性アンカー(ビス)を用いて縫合を行っているところです。

4-縫合完了

縫合が完了したところです。

8. 上腕骨骨幹部骨折 humeral diaphyseal fracture

上腕骨(じょうわんこつ)はご存じのとおり、肩関節や肘関節を構成する骨です。
ちなみに下腕骨(かわんこつ)という骨はありません。
交通事故や転落などにて発生する他、スポーツでは投球骨折と言ってボールを投げた瞬間に発生する場合もあります。下記の写真はアームレスリングにて受傷された20代男性です。
鏡視下に髄内釘(ずいないてい)を挿入し,固定を行いました。

1-ガイドワイヤー挿入

鏡視下に腱板を縦切した後に、ガイドワイヤーを挿入します。

2-適切な長さのネイルを選択

もう一本のガイドワイヤーを用いて、至適な長さのネイルを選択します。

3-エンドキャップ装着

ネイルを挿入したのちに、鏡視下にエンドキャップ(要するに釘の蓋)を装着します。

4-吸収性アンカー

最後に吸収性アンカーを用いて、最初に縦切した腱板を修復して終了!

術後の経過